BA.5および対策緩和の影響#1

作成: 令和4年7月5日,編集: 7月9日,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

最多感染者数を記録したオミクロン株の感染が徐々に落ち着き, 6月中旬には東京都でも重症者数が0になった。 しかし,6月下旬から新規陽性患者数が増え始め,ほぼ全国的に上昇傾向にある。 ワクチンの4回目接種が始まったが3回目接種率が50%程度にとどまっている。 マスクの着用は続いているものの,グループでの飲食,対面での会合,国内旅行などは通常に近づく傾向にある。 社会・経済活動,特に今後期待される観光も含めた国際交流の復活について, この夏に予想される感染の拡大と重症者数について,ある程度の見通しをつけておくことが必要である。

シミュレーション

人の行動モデルを見直し,集会の場所の分布および集会内での感染リスクなどを変更した。 主な変更点はつぎのとおりである。

  1. 人口密度の偏りをやや大きく (世界の1辺の長さを 740 から 1,000 に変更) し,
  2. 集会周辺の人の移動を素早く (個体の質量を 1/6 に,摩擦係数を 1.5 倍に変更) し,
  3. オミクロン株の感染可能距離を大きく (増殖力と感染距離の関係を表す指数を 1/3 から 0.9 に変更) した。

東京都の新規陽性患者数推移に適合するよう,人流やツイッターの分析結果を参考に, 集会や人の動きの変化を調整する。 ワクチン接種及び感染履歴の状況を反映した2021年11月26日時点を想定した16とおりの集団から, 各4試行,計64とおりのシミュレーションを実行し,新規陽性患者数について,それらの平均値と標準偏差を見る。

新規陽性患者数の推移

東京都をモデルとした新規陽性患者数の推移を下に示す。

2021年11月26日〜2022年9月7日。

2022年6月9日〜9月7日。

結果から示唆されること

この設定では,新規陽性患者数のピークは7月12日で人口の 0.063%, 東京都換算で約8,700人となった。 その後一旦は下がるものの,8月中は 0.04%,東京都に換算して約5,500人程度で高止まりとなる。

7月中旬以降の人の活動については,7月11日以降一定と仮定したが, お盆など夏季休暇期間の国内移動や,海外観光客の受け入れ拡大による感染者の流入も予想され, 医療サービスのゆとりとのバランスを考えた活動の回復計画が求められよう。

課題

入院率や重症化率を見積もるためのパラメータ調整が不十分で,実績との間にまだ乖離がある。 早急に調整を進め,入院患者数や重症者数についても今後の動向に対する示唆を提供したい。 今後のワクチン接種進捗の仮定も含め,随時更新が必要である。