令和3年1月の緊急事態宣言に伴う対策#1

作成: 令和3年1月10日, 編集: 1月17日, 創価大学理工学部 畝見達夫

状況

前年9月の第2波の終息が途中で下げ止まりの状態のまま11月下旬から徐々に陽性判明者数が増加し始めた。 北海道での増加が他地域に先行したため,他のコロナウイルスに見られる季節性流行,あるいは,観光目的の遠距離移動の影響などが疑われる。 Google あるいは筆者等の予想では12月下旬には判明者数がピークに達し1月には減少に転じると見込まれた。しかし,現実には1月に入っても陽性判明者数が増加し続け,特に首都圏の1都3県での医療体制が逼迫した状態となった。当該都県の知事から政府への要望もなされ,1月7日に当該地域限定ではあるが,政府から緊急事態を宣言するに至った。 陽性判明者からの聞き取り等に基づく感染経路の分析によると,飲食の場において感染し,家庭をとおして別の集団に感染が飛び火する現象が目立ち,都内飲食店への営業時間短縮要請も都知事から出された。 12月に入ってからの忘年会シーズン,また,年末年始の帰省自粛等により,通常規模の宴会は抑制されたものの,都内繁華街での小グループでの飲食の頻度がそれなりのレベルに上昇したことも考えられる。

潜伏期間が長く,無症状にもかかわらず感染性を持続するという新型コロナウイルスの厄介な性質により,すでに多くの感染者が潜在しているものと考えられ,そこから重症化リスクの高い個人への感染が起きていると予想される。筆者のシミュレーションでは,1日あたり陽性判明者数の数十倍の捕捉されない感染者が存在することが予想される。また,ウイルスの変異と獲得免疫の強さにより,一旦,感染した個人も獲得免疫が得られないあるいは定着しない,あるいは獲得した免疫が無効となる可能性もあり,波状的な流行の動きには,そのような要素も関与している可能性がある。

シミュレーション

昨年12月下旬における状況として 東京都のデータから,活動人口 800万人に対して1日当たりの陽性判明者数 2,000人 つまり 0.025% と仮定する。また,潜在感染者数を10倍の 0.25%と仮定する。 シミュレーションに用いる計算機の能力の制約から人口16万人についてその 0.25% に当たる400人の感染者が市中に潜在する状況を初期状態とする。 12月27日から1月9日までの東京都での陽性判明者数の推移から推測して,倍化日数は 12.8 程度と考え,感染率などのパラメータを設定する。

パラメータ値の一覧はこちらを参照のこと。

しかし,ここでの初期状態は,感染が広まり始めた時点ではないので,感染者数や免疫獲得者数などの分布を途中経過の段階として適切に設定するため,0.12% の感染者が存在する状態から出発し,事前の試行で得られた結果から20日後に緊急事態宣言がなされ,行動に抑制がかかるものと仮定する。

長距離移動抑制の効果

20日目から長距離移動の頻度を何%か抑制した場合の感染者数の推移を調べる。下のグラフは 0 から 100% までの10%刻みでの各抑制度合いについて20回のシミュレーション結果の平均の推移である。

Mobility

全シミュレーションについての個々の推移はこちらを参照されたい。 抑制の効果は認められるが,100%抑制したとしても終息には120日ほど要し,現在の想定である緊急事態宣言1ヶ月にはほど遠い。他の対策との組み合わせが必要であろう。

集会頻度抑制の効果

20日目から集会の頻度を何%か抑制した場合の感染者数の推移を調べる。下のグラフは 0 から 100% までの10%刻みでの各抑制度合いについて20回のシミュレーション結果の平均の推移である。

Gathering

全シミュレーションについての個々の推移はこちらを参照されたい。 10%の抑制でも効果はあるものの,終息には期間がかかる。40%で80日,50%で60日,80%で30日程度と読み取れる。

長距離移動抑制と集会頻度抑制の組み合わせの効果

20日目から長距離移動と集会の頻度を共に何%か抑制した場合の感染者数の推移を調べる。下のグラフは 0 から 100% までの10%刻みでの各抑制度合いについて20回のシミュレーション結果の平均の推移である。

G_and_M

全シミュレーションについての個々の推移はこちらを参照されたい。 集会の制約のみの場合と比較すると,大きな差は見られず,30〜40%抑制した場合では,逆に抑制後も感染が増加し,減少に転じるのが遅くなる現象が見て取れる。

結果から示唆されること

長距離移動抑制と集会頻度抑制について,シミュレーションにより効果を調べた。 それぞれに効果はあるが,集会の抑制の方が効果が大きく,かつ,両方を組み合わせても,集会のみを抑制した場合と大きな差は観察されなかった。 早期の終息には感染リスクの高い集会や会合の頻度を減らすことが効果的であり,地域内の移動については特に制限する必要はないことが示唆される。 このシミュレーションでの長距離移動は地域内に限られているので,感染の広がりの状況の異なる地域間での移動について言及するものではない点には注意されたい。