作成: 令和3年2月28日, 創価大学理工学部 畝見達夫
SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書
ここでは先のシミュレーションで用いたモデルでは, 小さな頻度で行われる集会に,周辺の多くの個体が参加していたが, より現実に近い現象を再現できるよう個体間の集会参加確率の差を大きくし, 頻度も比較的大きな値を用いてパラメータの調整を行い,同様のシミュレーションを行う。 具体的なパラメータ値の変更は下の表のとおりである。
集会頻度 | 集会参加率の分布 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
年末 | 宣言時 | 2月末 | 最小値 | 最大値 | 最頻値 | |
旧 | 4% | 0.75% | 0.75% | 40% | 100% | 70% |
新 | 27% | 1.25% | 2.5% | 0% | 100% | 20% |
下の図は,新たなパラメータ設定でのシミュレーション結果である。 初期状態で,感染者が人口の 0.02%存在するものと仮定し, 集会頻度4%でシミュレーションを開始する。 12日目を12月28日と仮定して,一旦頻度を 0.5%に下げ,1月4日に6%に上げた後, 緊急事態宣言が出された1月7日から抑制された頻度に変わるものとする。 実際のデータを見ると陽性判明者数の減少が徐々に鈍化する現象がみられ, 2月末には頻度が宣言直後の倍程度になっているものと推測される。
この設定の下で2月末での頻度の値を 1.5〜3.5% とした場合の陽性判明者数の推移を調べる。 図は各抑制度合いについて40回のシミュレーションの平均を示している。 緑の太線が東京都における陽性判明者数の週平均であり, 人口を1,372.4万人と仮定した比率で表わした。
緊急事態宣言後の減少の度合いから推測して,以下では緊急時代宣言直後は 1.25%, その後徐々に上昇し2月末で 2.5% に抑制されたものと仮定する。
上述の前提を踏まえ,人口36万人の集団について, その 0.02%にあたる72人の感染者がいる状態をシミュレーションの初期状態とし, その日付を12月16日と仮定して,上述のシナリオに従い集会頻度を日付の進行とともに変化させる。 緊急事態宣言解除の日付を,2月28日,3月7日,14日,21日とし, また,解除後の集会頻度を年末の27%に対し,4, 5, 6, 8% の4とおりについて, 陽性判明者数及び感染者数の推移の違いを見る。 パラメータ設定値の詳細は,こちらを参照のこと。 このとき,シミュレーション時間節約のため,緊急事態宣言解除までの推移については, 40回のシミュレーション試行のうち,それらの平均にもっとも近い試行を用いることとする。 下に40回の試行中,最小,最大,平均,平均に最も近い試行の推移を示す。
その試行における2月28日,3月7日,14日,21日の状態を保存し, 宣言解除後のシミュレーションを異なる乱数系列により40回実施する。 なお,この機能を実現するため,シミュレータに新たに途中状態の保存と読み込みの機能を追加した。
宣言解除時の陽性判明者の人口に対する割合は, 試行間の週平均で以下の表の通りである。
Feb 28 | Mar 7 | Mar 14 | Mar 21 | |
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100万人当たり | 28.66 | 24.11 | 21.55 | 18.73 |
東京都換算(人) | 393.3 | 330.9 | 295.7 | 257.1 |
陽性判明者数の推移の40試行の平均を示す。
下に感染者数の推移を示す。
全シミュレーションについての個々の推移は下記のとおりである。
先のシミュレーション結果と見た目はさほど変化がないように見えるが, 解除後の頻度については,やや異なる結果となった。 先のシミュレーションでは,年末の半分以下の抑制でリバウンドを比較的ゆるやかにできていたが, ここでは,年末の1/5以下でなければ急速な再拡大の恐れがあることが示唆されている。 2月の2.5%に対して 1.6倍の 4%なら再拡大は起きにくく, ワクチン接種の普及により終息へ向かうことができそうであるが, 2倍の5%では,ワクチン接種の遅れにより再拡大の恐れがあることが示唆される。