ワクチン非接種クラスタの影響#1

シミュレーション実施: 令和3年5月4日 作成: 5月19日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

ワクチン接種の優先順位について,感染の早期終息と重症化抑止という2つの目的を同時に満たす解はなく, 重症化リスクの高い高齢者を優先するか, 感染拡大を媒介しやすい行動の活発な現役世代を優先するかは,二律背反の関係にある。 極端な考え方の1つは,ワクチンによる終息を目標としないという考え方である。 その根拠は,何らかの理由で接種しない人々が複数のクラスタを形成しているため, それらの全てが集団免疫を獲得するまでは,そこから周囲に漏れてくる感染により, そもそもワクチンによる終息は望めない。とする考え方にある。 医療サービスが届きにくい人々,また,ワクチンに対する忌避を宣伝する集団などが存在することは確かであり, その影響が終息過程に与える影響を定量的に把握することは,戦略を決定する上で重要である。

ここでは,そのような非接種クラスタをモデル化し,異なる規模のクラスタ分布での感染拡大・終息の様相を シミュレーションにより調べ,その影響を明らかにする。

シミュレーション

人口規模を 64万人について,人口分布を含めたのパラメータ設定を 偏りが緩慢な人口分布でのワクチン接種戦略 と同様の設定で, 緊急事態宣言を5月11日解除したと仮定し, ワクチン接種をしない場合,5月1日から1日あたり人口の0.5% または 0.3% でランダムに実施すると想定した各場合 について,各64回のシミュレーションを行う。 この際,ワクチンを接種しない個体群の地理的なクラスタが存在するものとし, 非接種個体の内,クラスタ内にある数の割合を 0% から 100% まで 20% 刻みに変えた各設定について シミュレーションを実施する。 また,医療サービスからの疎外を考慮し,非接種個体の半数は検査も受けないものと仮定する。 クラスタの分布および生成の方法については, 非接種クラスタ分布の生成 を参照のこと。

下に,粒度 50% の設定での3種類の設定に,粒度 10% で接種速度が 0.5% の場合を加えた4とおりの シミュレーション結果を示す。グラフは 64回試行の平均値である。

ワクチンなし粒度 50%,接種 0.3%/日
粒度 50%,接種 0.5%/日粒度 10%,接種 0.5%/日

どの場合でもクラスタ率の違いによる,感染動向の差は大きくないが, クラスタ率が大きい方がピーク時の陽性判明者数がやや小さくなる傾向が見られる。 特にワクチン接種がない場合にはある場合に比べ差が大きい。 これは,ワクチン接種の有無ではなく検査の有無が影響したと見るのが妥当であろう。

上図中の右下の粒度10% の場合を 50%の場合と比較すると,ピーク時陽性者数について, 前者の方がわずかに大きい値になっている。

下に実感染者数の推移を示す。陽性判明者数の推移とほぼ同様の傾向が見られる。

ワクチンなし粒度 50%,接種 0.3%/日
粒度 50%,接種 0.5%/日粒度 10%,接種 0.5%/日

結果から示唆されること

非接種者クラスタの影響について調べるシミュレーションを実施した。 検査しない個体が含まれる場合,クラスタ率が高い方がピーク時感染者数がやや低くなる傾向がみられた。 原因については,今後,詳細を見た上で判断する必要があろう。

上で示した結果からは,この設定においては非接種個体のクラスタは感染拡大・終息に対して, 大きな影響は見られなかった。