2回目接種と3回目接種の間隔#1

作成: 令和3年10月25日,10月28日編集,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

デルタ株が猛威を振るった第5波も8月下旬から新規陽性患者数が減少に転じ, 10月の緊急事態等宣言の解除後も多くの都府県では減少の傾向がみられ, 感染予防対策を継続しながらも,様々な経済・文化活動の制限を緩和する動きが出てきている。

感染者数の縮小は,ワクチン接種と適切な感染対策の普及によると考えられる一方, 期間の経過とともに接種者の感染が増える傾向が,接種の先行したイスラエルや英国から報告され, ワクチン接種による感染予防効果が接種後の期間の経過とともない減弱し, 感染の再拡大につながることが危惧されている。 これへの対策として接種が先行した国々では3回目のワクチン接種が始められた。 わが国でも,2回目接種から8ヶ月後に3回目接種を実施

シミュレーション

シミュレーションのパラメータを ワクチン最終接種率の影響#1 とほぼ同様とするが, 第5波の拡大,収束双方の急速な変化をより正確に再現できるよう,世界の面積を広め, 人口密度を下げ,それを補完するようシナリオ内の集会頻度を高く設定した。 特に東京で急速な感染拡大が見られたオリンピック開催期間中には, 基本対策の遵守割合が低下したと想定し,実際のデータに適合するよう, 一時的に感染確率を高く設定し,逆に8月下旬には,医療逼迫などの状況への自主的反応や, 不織布マスクの普及などから遵守割合が向上したと仮定した。

10月に徐々に行動制限に緩和し,11月にほぼ通常に戻す場合を想定したシナリオについて, 明年3月末までのシミュレーションを実施する。 途中,年末に昨年と同等の接触機会の増加があるものと想定する。 ただし,マスク着用,密な集合の回避など基本的な感染対策を継続する場合と, 年末に緩める場合を想定する。 それぞれについて,3回目ワクチン接種を,行わない場合,2回目接種8ヶ月後に行う場合, 6ヶ月後に行う場合を想定する。 さらにワクチンの最終接種率が12歳以上の接種対象者の80%の場合と90%の場合を想定する。 ワクチン接種による予防効果は、2回目接種後114日目から線形に減衰し214日目に消失すると仮定する。 2020年12月16日から9月2日までのシミュレーションを128回実行し, 新規陽性患者数が東京の実数と近い方から8回のシミュレーション過程を取り出し, それぞれ8回シミュレーションをそれぞれの継続として合計64回のシミュレーションを行い, 平均と標準偏差を調べる。

下に陽性患者数の推移を示す。64回のシミュレーション試行のうち,いくつかは途中で感染者が 0 となり, 終息した。以下の図に示す陽性患者数の数値は,試行が終息した時点以降を母数から除いた統計量である。 細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移,破線は平均±標準偏差である。 細い線は1回目のワクチン接種からの接種効果を維持している個体の人口に対する率の推移であり, 値は右側の目盛りに相当する。

下に新規陽性患者数の推移を示す。

対策3回目接種なし8ヶ月後6ヶ月後
継続
緩和

64試行中で終息した試行の数は以下の通りである。

対策最終接種率3回目接種なし8ヶ月後6ヶ月後
継続80%8412
90%373540
緩和80%349
90%354042

64回中最大で42回が終息した場合もあるが,実際に終息する確率が 42/64 であることを示すものではない。 個体ベースシミュレーションでは,全体での感染率が個体数の逆数に近い,あるいはそれ以下の場合には, 終息する可能性が高くなる。ここでは個体数を 100万としているが,たとえば東京都の人口はその10倍以上であり, 平均として考えた場合でも,終息する可能性はシミュレーション結果の 1/10 以下と見積もるのが妥当であろう。

下に感染者数の推移を示す。

対策3回目接種なし8ヶ月後6ヶ月後
継続
緩和

結果から示唆されること

ここでの設定では,10月,11月に段階的に行動制限を撤廃し,12月には社会・経済活動を戻した場合でも, 基本的な感染予防対策を継続していれば,年内は感染者数は比較的抑制された状態が保たれる結果となった。 また,場合によっては感染者数が0となり終息する可能性もあり, その確率は最終接種率および3回目接種間隔によることが示唆された。 終息しなかった場合は, 1月に入ると,ワクチンによる感染予防効果の経時的減弱等により,再拡大が起きる可能性が見られた。 再拡大の速さは,最終接種率,3回目接種の有無と接種間隔などに左右され, この結果からは,3回目接種までの間隔を6ヶ月程度に短縮すべきことが示唆された。