デルタ株下での感染対策#5

作成: 令和3年8月15日, 8月18日編集,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

デルタ株の爆発的な感染拡大が全国に広まりつつある。 発症者のほとんどはワクチン未接種であり, 特に40〜50歳代の患者に重症化する場合が増え, それ未満でも重症化するケースが発生している。

ワクチン接種の進捗に応じて感染者数は減少することが期待されるが, 本国および英米の現状からすると,減少に転じるには日本ではワクチン接種率が不十分であると推測される。

シミュレーション

シミュレーションのパラメータを デルタ株下での感染対策#4 と同様の設定とする。 ただし,感染による獲得免疫の効果についてモデルを改良し, 最新の東京都の陽性患者数の推移と一致するよう, 試行的なシミュレーションを通してシナリオを再調整した。 また,前回のシミュレーションでは昨年12月22日からのシミュレーションを64回試行し, それぞれの過程を11月末まで実行し,それらの平均と標準偏差を調べたが, 今回は,64回の試行結果から,今年1月1日から8月14日までの東京の陽性患者数推移との差が小さい4つの試行を抽出し, それらの継続として各16試行ずつ,合計で64回の試行を実行し,それらの平均と標準偏差を調べた。

より厳しい行動制限を8月23日から実施したと仮定し, 制限により集会頻度および移動頻度をそれまでの 20, 40, 60, 80, 100% とした場合について, 陽性患者数,感染者数,重症者数,市中不顕性感染者数の推移を調べる。 シミュレーションの実行は昨年12月22日からの始めているが,ここでは5月16日以降について示す。 下に陽性患者数の推移を示す。細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移, 破線は平均±標準偏差である。

下に感染者数の推移を示す。灰色の細い線は1回目のワクチン接種率の推移であり, 値は右側の目盛りに相当する。

下に重症者数の推移を示す。

6月下旬以降で実データとシミュレーション結果の乖離が見られる。 これは,この頃から増加したデルタ株の重症化速度の上昇を適切にモデル化できていないためと考えられる。

下に市中不顕性感染者数,つまり,隔離されていない無症状の感染者数の推移を示す。

平均値のピークの日付と値は以下の通りである。

集会移動日付ピーク値東京都換算
陽性患者数 20%8月31日0.0556%7,763人
40%9月1日0.0570%7,963人
60%9月4日0.0588%8,211人
80%9月5日0.0630%8,790人
100%9月10日0.0685%9,566人
感染者数 20%8月31日0.987%137,750人
40%9月2日1.008%140,778人
60%9月5日1.043%145,666人
80%9月9日1.117%155,983人
100%9月13日1.225%171,067人
重症者数 20%9月19日0.00255%355人
40%9月20日0.00261%364人
60%9月20日0.00267%372人
80%9月28日0.00283%395人
100%10月1日0.00306%426人
市中不顕性感染者数 20%8月29日0.442%61,769人
40%8月30日0.448%62,480人
60%8月31日0.456%63,658人
80%9月4日0.483%67,471人
100%9月9日0.527%73,542人

結果から示唆されること

行動制限の強さに応じて 8月末〜9月末にピークとなり,その後はワクチンの効果により減少すると推測される。 行動制限が弱いと、ピーク時 (9月中旬〜末) には, 陽性患者数 0.069%、感染者数 1.23%、重症者数 0.0031%、市中不顕性感染者数 0.53% に達する可能性がある。 免疫効果の経時的減衰により、感染者数が高い状態が持続する可能性が示唆され, 3回目の接種の実施についても考える必要があろう。

課題

重症者数についてデルタ株の発症・重症化速度について実データを参考にモデルを見直す必要がある。