オミクロン株の侵入を想定したシミュレーション#3

作成: 令和4年1月11日,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

2021年秋以降の感染縮小を受け,徐々に日常の生活および経済・文化活動が復帰したが, 11月下旬に発見された感染力の強い新たな変異ウイルス,オミクロン株が南アフリカ,英国,ついで 米国をはじめとする各国からも報告され,日本国内でも12月にはオミクロン株が優勢になりつつある。 また,通常生活への復帰にともない,年末年始における集団での飲食の機会が増え, 年明けには,急速な感染拡大が各所で発生している。 特に沖縄,山口,広島では,急速な拡大に対応し,1月9日にまん延防止特別措置がとられた。 東京,大阪などの大都市でも拡大が続いており,対応の選択が迫られる状況にある。

シミュレーション

先の報告 で用いたパラメータ設定を基本に, 変異ウイルスごとの毒性の加味することで,重症患者数の推移についても考察する。 ワクチンの3回目接種のスケジュールが具体化してきたことから, ここでは,2回目接種7ヶ月後に3回目接種を行うものと仮定する。 また,先の報告ではやや不十分であった 11月の感染者が比較的少ない時期の実際の推移にも適合するよう, 集会頻度,外部からの侵入のシナリオ,さらにオミクロン株の増殖力を見直した。 オミクロン株の増速力をデルタ株の 1.3倍を採用している。 以下に東京都の新規陽性患者数の実データへの適合の様子を示す。

変異ウイルスの毒性については,オミクロン株がデルタ株より弱い可能性を示唆する報告が各所から上がっているが, その程度については,まだ不確かであるため,以下ではデルタ株の 10, 20, 30% の3通りについて試す。

特段の対策を採らない場合について, 下に東京都をモデルとした新規陽性患者数の推移を示す。 細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移,破線は平均±標準偏差である。 細い線は1回目のワクチン接種からの接種効果を維持している個体の人口に対する率の推移であり, 値は右側の目盛りに相当する。

7月4日以降分。縦軸の上限を8月のピーク時の2倍とした場合。

12月21日以降分。

いずれの場合も,対策をとらなければ急速な感染拡大により前回第5波のピークをはるかに超える可能性が高い。

以下に重症患者数の推移を示す。

オミクロン株の毒性が10%の場合でも重症患者数が8月のピーク時を大きく超える結果となっている。 下に毒性30%の場合の,変異ウイルスごとの感染者数の推移を示す。

以下に示すように,比率としてはオミクロン株が優勢になるが, 感染者の絶対数で見るとデルタ株も8月のピークに匹敵する数に達しており, 重症者数の上昇もデルタ株による可能性がある。

1月17日から行動制限を5週間実施した場合のシミュレーション結果を以下に示す。

行動制限を実施した場合でも,実施期間中に8月を超えるピークに達する結果となっている。

結果から示唆されること

いずれの場合も急速な感染拡大の発生が予想される。 今回のシミュレーションでは,ワクチン接種による重症化予防効果について, 厳密に反映されていないという欠点があり, 国内外からの調査結果を踏まえたモデルの拡張が必要である。 この効果が十分強ければ,ここで示されたような重症者数の拡大が起きない可能性も高い。