シミュレーション:人口密度の影響 #1


参考動画: 人口1万人,移動頻度3%

作成: 令和2年11月26日, 編集: 11月26日, 創価大学理工学部 畝見達夫

個体ベース感染シミュレーションにより,人口密度による流行課程の違いについて明らかにする。 現在の計算機環境で可能な規模を考え,ここでは人口10万人の集団についてシミュレーション実験を行う。

モデルの関連箇所

人の移動が同程度であれば,人口密度の高い密集した地域では人と人が出会う機会が多く,また,様々な人と出会う確率も高くなるため,感染が速くなると予想される。 ここでは,人口を一定とし,世界の広さを指定するパラメータを変える。 世界は正方形の領域であり,その大きさは一辺の長さで指定する。 モデルの概要については,こちら を参照されたい。

パラメータ設定

人口を10万人に固定し,世界の広さを変えることで人口密度を変化させる。 世界の距離単位を 1m と想定し,人口密度 1万〜10万人/km2 の範囲で 1万の間隔で, 合計11とおりの密度について,各10回シミュレーションを実行し,感染者数の推移を記録する。 シミュレーション期間は,最長で200日間とし,それ以前に感染者がいなくなった場合は,そこで中止する。 詳細はモデル仕様の世界の時空間モデルの節を参照されたい。

その他のパラメータを含めた既定値は下記の表のとおりである。

Parameters 画像を拡大するにはここをクリック

その他のパラメータは,かなり緩い対策がとられた状態である点にも注意されたい。

シミュレーション結果

つぎに示す左側の図は,全体の人口に占める感染者の割合の時間変化について,10回の試行の各ステップでの平均をとったものである。 この指標は陽性判明者数とは異なるので,現実に測定することが難しいという点には注意されたい。

下の図に,ピーク時の感染者数,200日分実行後の累積感染者数,ピークの日付の平均値を示す。

自明ではあるが,人口密度が高いほど感染者数は多くなる。 ただし,6万人/km2 では人口密度が高いほど拡大も終息も早くなるが, それ未満では,終息が遅くなることが分かる。 以下の図にすべてのシミュレーション過程を列挙する。

図を拡大表示するにはここをクリック。

結論と考察

人口密度が感染拡大に及ぼす影響についてシミュレーション実験を行なった。 自明ではあるが,人口密度が高いほど感染者数は多くなるが,長距離移動の影響についてのシミュレーション実験などと同様に,人口密度が低く感染者数が少ない場合は終息も早くなることが確認された。

実際の人口密度は,たとえば東京都区部の場合,千代田区の昼間人口密度が約7万人/km2、夜間人口は約5千人/km2,新宿区の昼間人口密度が約4万人/km2、夜間人口は約2万人/km2,豊島区の昼間人口密度が約3万人/km2、夜間人口は約2万人/km2である 1。 感染に関わる人と人の接触機会という意味では昼間人口の用いるのが適切と考えられるが,感染経路調査の結果からは家庭内での感染が40%以上を占めており2,夜間人口を基にした世帯規模の分布の情報を用いることも有用と考えられる。

感染には様々な要素が関わっており,ここで示したシミュレーションにおける数値の絶対値を現実に適用するには,まだモデルの精緻化が不十分である点には注意されたい。


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  1. 東京都, 平成27年国勢調査による 東京都の昼間人口 

  2. NHK, 家庭内感染が増加傾向に 都内で今月40%超 家庭内でも対策を, 2020年11月10日