対策の時系列に沿ったシミュレーション #1

作成: 令和2年11月27日, 編集: 11月28日, 創価大学理工学部 畝見達夫

個体ベース感染シミュレーションシナリオ機能を使い,実際にこれまで実施された移動や集会の制限等の時系列に沿ったシミュレーションを行い,その結果と現実との乖離をもとにモデルの精緻化を図る。 この報告では初期モデルでのシミュレーション結果を示し,今後の精緻化のための資料とする。 現在の計算機環境で可能な規模を考え,ここでは人口9万人の集団についてシミュレーション実験を行う。

対策の時系列

国内で最初の感染者が確認された1月16日を起点とし,現実に実施された様々対策等のうち,以下の表にあるものを考慮することとする。

イベント 日付 経過日数 対策 シナリオ
最初の感染確認 1月16日 対策なし
WHO 緊急事態宣言 1月30日 14日 マスク・消毒等 感染確率↓
専門家会議から呼びかけ3蜜 3月9日 53日 社会的距離 協力率↑
緊急事態宣言 発令 4月7日 82日 移動・集会制限 移動・集会頻度↓
第1波 陽性判明数ピーク 708 4月10日 85日
相談・受診の目安緩和 5月11日 116日 検査の迅速化 検査率↑
緊急事態宣言一部を除き解除 5月21日 126日 移動制限緩和 移動頻度↑
緊急事態宣言 全国解除  5月25日 130日 移動制限緩和 移動頻度↑
東京都ステップ3  6月12日 148日 集会制限緩和 集会頻度↑
東京都集会制限緩和 1,000人 6月19日 155日 集会制限緩和 集会頻度↑
東京都集会制限緩和 5,000人 7月10日 176日 集会制限緩和 集会頻度↑
GoTo Travel 東京以外 第1弾 7月22日 188日 移動制限緩和 移動頻度↑
第2波 陽性判明数ピーク 1,574 7月31日 197日
イベントの人数制限緩和  9月19日 247日 集会制限緩和 集会頻度↑
GoTo Travel 東京を含む 第2弾 10月1日 259日 移動制限緩和 移動頻度↑
第3波 陽性判明数 2,201 11月18日 307日
GoTo 見直し 11月24日 313日 移動頻度↓

モデルの関連箇所

対策の種類に応じ,感染可能距離内に近づいた時の感染率,社会的距離の協力率,移動および集会の頻度を変化させる。 モデルの概要については,こちら を参照されたい。

パラメータ設定

パラメータの既定値は下記の表のとおりである。

Parameters 画像を拡大するにはここをクリック

ここでは,以下のように一部のパラメータについては,上記の既定値とは異なる値を初期値とした。

パラメータ名
感染確率infectionProberbility 70
免疫有効期間immunity [5,30,15]
接触者追跡 contactTracing 10
移動頻度mobilityFrequency 7
移動距離mobilityDistance [10,80,30]
社会的距離協力率distancingObedience 0
集会の大きさgatheringSize [5,20,10]
集会の持続時間gatheringDuration [1.5,24,3]
集会の頻度gatheringFrequency 70
疑症状検査対象者subjectAsymptomatic 0
有症状検査対象者subjectSymptomatic 99

シナリオ設定

経過日数を条件とし,移動や集会の頻度等をパラメータ値の変更を動作とする以下のルールによってシナリオを構成する。

経過日数 パラメータ名
18 感染確率infectionProberbility x
50 社会的距離協力率distancingObedience 30
80 社会的距離協力率distancingObedience 50
移動頻度mobilityFrequency 15
集会の頻度gatheringFrequency 15
130 移動頻度mobilityFrequency 40
150 集会の頻度gatheringFrequency 50
180 集会の頻度gatheringFrequency 60
190 移動頻度mobilityFrequency 50
250 集会の頻度gatheringFrequency 70
260 移動頻度mobilityFrequency 70

18日目の感染確率の値を 40%〜70%の範囲で 5% 刻みの異なる値を設定したシミュレーションを,それぞれ10回実行する。

シミュレーション結果

つぎに示す図は,全体の人口に占める感染者の割合の時間変化について,10回の試行の各ステップでの平均をとったものである。 この指標は陽性判明者数とは異なるので,現実に測定することが難しいという点には注意されたい。

以下の図にすべてのシミュレーション過程を列挙する。

図を拡大表示するにはここをクリック。

下の図は,陽性判明者数の推移であり,同じく10回の試行の各ステップでの平均をとったものである。

結論と考察

モデルの精緻化を目的とし,対策の時系列にそったシナリオによるシミュレーションを行った。 感染者数および陽性判明者数の推移について,18日目以降のマスクや消毒の普及により抑制された感染確率を40%から70%と想定し,5%刻みの異なる値それぞれについて10回のシミュレーションを実施した。 感染者数,陽性判明者数ともにおおむね同様の推移が観察されたが, 実際に厚生労働省から報告されている陽性者数推移と比較すると,以下の点について現実との乖離が見られ,今後のモデルの修正に生かしたいと考える。

  1. 全体として人口に対する陽性者の割合がかなり大きい。
  2. 第1波のピークが第2波、第3波より大きい。
  3. 第2波,第3波の立ち上がりが遅い。
  4. 第2波の終息が遅く,第3波との間の陽性者数が多すぎる。

様々な対策の実施にともなう感染の推移は,人と人との接触機会の推移に関係すると考えられる。 今後,それに影響すると思われるいくつかのパラメータについて,シミュレーション実験をとおして感度を見極めつつ変更を加え,必要ならモデル自体を修正していきたい。


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