作成: 令和2年11月25日, 編集: 11月25日, 創価大学理工学部 畝見達夫
個体ベース感染シミュレーションにより,発症者を対象とした検査の迅速性の流行抑制に及ぼす効果を明らかにする。 現在の計算機環境で可能な規模を考え,ここでは人口9万人の集団についてシミュレーション実験を行う。
個体が感染しているかどうかを調べる検査はつぎの場合に実施するものとする。
ここでは,1. の発症した個体の検査を発症後1日当たりどの程度の確率で検査を実施するかが感染拡大の抑止に及ぼす効果に関係するシミュレーション実験を行い,結果の統計的傾向についてまとめる。 検査のモデルは,現在広く実施されている PCR検査を想定し,感度,特異度,検査結果までの期間などを設定した。 モデルの概要については,こちら を参照されたい。
発症者に対する検査を発症後1日当たり,指定した確率で実施する。 接触者は1日後に必ず検査し,他に0.1%の確率でランダムに選んだ個体についても検査を施す。 検査確率を 10-90% の範囲で 10%刻みで変化させた9とおりの値について, 各10回シミュレーションを実行し,感染者数の推移を記録する。 シミュレーション期間は,最長で200日間とし,それ以前に感染者がいなくなった場合は,そこで中止する。 詳細はモデル仕様の検査の節を参照されたい。
その他のパラメータを含めた既定値は下記の表のとおりである。
その他のパラメータは,かなり緩い対策がとられた状態である点にも注意されたい。
つぎに示す左側の図は,全体の人口に占める感染者の割合の時間変化について,10回の試行の各ステップでの平均をとったものである。 この指標は陽性判明者数とは異なるので,現実に測定することが難しいという点には注意されたい。
下の図に,ピーク時の感染者数,200日分実行後の累積感染者数,ピークの日付の平均値を示す。
自明ではあるが,検査確率を増やせば感染拡大を抑制できることが分かる。 以下の図にすべてのシミュレーション過程を列挙する。
発症した個体に対する検査について,発症による検査対象者数に対する1日当たりの実施率の変化に伴う感染拡大抑制への効果についてシミュレーション実験を行なった。 自明ではあるが,検査確率を増やせば感染拡大を抑制できることがシミュレーションによっても確認された。
流行当初,検査・隔離などの医療体制の不足が予想され,容量を超えないよう検査自体の実施をある程度制御する必要が生じ,発熱などの症状から4日目に検査を実施するなどの措置がとられたが,体制がある程度整ったこともあり5月11日にその制限は解除された。
今後とも,十分迅速な検査が行えるよう充実した体制を維持することが重要と考えられる。
© Tatsuo Unemi, 2020. All rights reserved.