ワクチン接種の速さの影響 #1

作成: 令和3年3月7日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

ワクチン接種#3 および ワクチン接種の優先順#1のシミュレーションでは, 接種の速さを1日あたり人口の 0.2%, 0.4%, 0.6% の3とおりについて試行した。

ここでは,接種の速さが感染者数の推移に与える影響についての理解を得るため, 接種の速さを 0.1% から 1% まで 0.1% 刻みに変え,それぞれの40回の シミュレーションを実施し,ワクチン接種開始後におけるピークまでの日数と そのときの感染者数について,接種の速さとの関連性を調べる。 接種の優先順位は特に設けず,個体の属性や地域に限らず接種対象者をランダムに選択するものとする。

シミュレーション

ワクチン接種の速さ以外のパラメータは,ワクチン接種#3 と同じ設定を用いる。 緊急事態宣言が3月21日に解除され,その後の集会頻度が 4%, 5%, 6% の場合について, ワクチン接種が5月1日に開始されたとして, それぞれ,1日あたりの接種数を人口の0.1% から 1.0% までの10通りについて 各40回のシミュレーションを実施する。

下に代表的な例として,解除後の集会頻度 5% の場合の陽性判明者数の推移の平均を示す。 下段の図は感染者数の推移である。

下の図はピーク時の感染率とワクチン接種開始からの日数である。 上側は,個々の試行におけるピーク時についての平均と標準偏差, 下側は,全試行の平均推移におけるピーク時である。 接種の速さが 0.1% の場合は8月以降にピークが来るため,下のグラフでは省略した。

当然ながら,速いほどピークは早まりそのときの感染者数も少なくなる傾向がある。 0.3%より0.4%のときの感染者数が平均で大きくなっているが, 40試行の間のばらつきが大きく,統計的に有意な差ではない。 以下に全ての場合を示す。

陽性判明者数の推移
集会頻度 4%集会頻度 5%集会頻度 6%















結果から示唆されること

ワクチン接種の速さの違いが感染者数の推移に及ぼす影響についてシミュレーションを行った。 それぞれの設定で実施した40回の試行の間ではばらつきが大きいものの, 迅速な接種が終息を早め,ピーク時の感染者数も減らす傾向があることが確認できた。

ただし,集会頻度 5% では,1日あたりの接種数が人口の 0.5%以上, つまり 200日未満で全員の接種を終える場合は,速さによる効果の変化は緩やかなものとなった。 集会頻度 6% では 0.6% 以上,つまり 167日未満で全員の接種を終える場合に同様の現象が見られた。 この程度までは速度を上げる努力に意味があるとも言えよう。