ワクチンの1回接種と感染抑制効果の強さの影響 #1

作成: 令和3年3月8日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

ワクチン接種#3 および ワクチン接種の優先順#1等のシミュレーションでは, Pfizer-BioNTech の2回接種の治験データをもとに, 1回目接種から3週後の21日目で30%の抑制効果があり,21日目に2回目を接種し, それから2週間後,1回目接種から 35日目に95%の抑制効果に達し,以後この効果が持続するものと仮定した。 一方,ワクチンの種類によっては1回のみの接種を推奨するものや, 実証的なデータはまだないものの1回の接種でも十分な効果が得られるとする説も出てきている。 2回接種に必要な資源を1回接種で済ますことでより多くの個体を接種対象とできることから, 迅速性を重視し,英国では1回接種で進める計画も持ち上がっている1

ここでは,1回接種の場合の効果を 6週間後に 60% または 85% の感染抑止と仮定し, 感染者数の推移を調べ,2回接種の場合と比較する。

シミュレーション

ワクチン接種による酷使効果以外のパラメータは,ワクチン接種#3 と同じ設定を用いる。 緊急事態宣言が3月21日に解除され,その後の集会頻度が 4%, 5%, 6% の場合について, ワクチン接種が4月1日,5月1日,6月1日に開始されたとして, それぞれ,1日あたりの接種数を人口の 0.2%, 0.4%, 0.6% の3とおりについて 各40回のシミュレーションを実施する。

下に代表的な例として,解除後の集会頻度 5%,ワクチン接種開始5月1日の場合の陽性判明者数の推移の平均を示す。 実線が2回接種,破線,点線,一点鎖線はそれぞれ最大抑制効果が 85%,60% および 30% の場合である。 下段の図は感染者数の推移である。

下にワクチン接種開始後のピーク時およびその時点の感染者数を示す。 実施率 0.2% で最大効果が 60% および 30% の場合は,シミュレーション実行を8月末までとしたため, 対象の期間中にピークに到達せず,8月末で感染者数が最大となっている。

2回接種に必要な資源で1回接種を倍の対象者に実施した場合を2回接種と比較するため, 2回接種の実施率 0.2% と1回接種の実施率 0.4% を比較する。

2回接種 0.2% 1回 85%, 0.4% 1回 60%, 0.4% 1回 30%, 0.4%
推移グラフ 赤の実線 緑の破線 緑の点線 緑の一点鎖線
感染者数(%) 0.181 0.101 0.130 0.142
ピーク時(日) 91.75 81.00 86.00 115.50

上の表から,もし,1回接種で 60% 以上の効果があれば,感染者数と終息時期の両方の点で, 2回接種よりも有効と考えられる。

以下に全ての場合を示す。

集会頻度 4% の場合(2月末の1.6倍,年末の14.8%)

推移4月1日接種開始5月1日開始6月1日開始
陽性判明者数


感染者数


集会頻度 5% の場合(2月末の2倍,年末の18.5%)

推移4月1日接種開始5月1日開始6月1日開始
陽性判明者数


感染者数


ピーク

集会頻度 6% の場合(2月末の2.4倍,年末の22.2%)

推移4月1日接種開始5月1日開始6月1日開始
陽性判明者数


感染者数


ピーク

結果から示唆されること

2回接種を前提とするワクチン接種を1回にしたときの感染者数の推移に及ぼす影響について検討するための材料として, 1回接種後の最大抑止効果を仮定したシミュレーションを行った。

2回接種を前提に開発されたワクチンについては, 一回接種での長期間の効果については実例が極僅かであり治験も行われていないため, 正確な予測はできないが,もし,60% ほどの効果が見込めるなら,感染拡大防止の観点からは, 1回接種で多数の人々に接種する方が効果的な場合があることが示唆される。

もちろん,効果が 60% 程度では,接種したからといって感染を逃れる安心感には結びつかず, また,接種を条件に感染リクスを高い行動を許容するにも難があるという点には注意が必要である。


  1. Ivan F. N. Hung and Gregory A. Poland: Single-dose Oxford–AstraZeneca COVID-19 vaccine followed by a 12-week booster, The Lancet, Vol. 397, No. 10277, pp.854-855, March 6, 2021. DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00528-6)