ワクチンを接種しない個体の影響 #1

作成: 令和3年3月22日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

これまでに実施した ワクチン接種#3ワクチン接種の優先順#1のシミュレーションでは, ある速度でワクチン接種を進め,最終的には人口の全員が接種または感染により免疫を獲得することを 前提にしていた。 しかし,現実には様々な理由により接種しない個体がある割合で存在することは避けられない。 ここでは,その割合が感染拡大に及ぼす影響について理解するためのシミュレーションを行う。

シミュレーション

ワクチン接種の優先順(人口密度優先) で用いた設定を見直し, 長距離移動後の帰宅頻度を上げることで人口の分布をほぼ一定に保つこととし, 令和2年12月中旬からの東京都の陽性判明者数の推移に適応するようパラメータ調整を再度おこなった。 ここでは,その設定を用いる。新たなパラメータでは宣言解除時点での集会頻度は 1% である。 ワクチンを接種しない場合の推移は以下のようになる。

ワクチン接種の順序については,同様に,中央の密集地域を優先する場合, 活発さな個体を優先する場合,優先順位をつけずランダムな順序で接種した場合の3とおりについて試みる。 緊急事態宣言が3月21日に解除され,その後の集会頻度が 1%, 1.5%, 2% の場合について, ワクチン接種が5月1日に開始されたとして, それぞれ,1日あたりの接種数を人口の 0.2%, 0.4% の2とおりのそれぞれに, 接種率が 100%, 80%, 60%, 40% の場合について, 各40回のシミュレーションを実施する。 1日当たりの接種数は接種率にかかわらず一定であるものと仮定する。

下に代表的な例として,解除後の集会頻度 1.5%, 1日当たり 0.2% 接種で中央の密集地域を優先する場合の陽性判明者数の推移の平均を示す。 下段の図は感染者数の推移である。

ワクチンを接種しない人が多いほど終息は遅くなるが,幅は1週間から1ヶ月程度である。 ピーク時感染者数は,終息時期ほど明確ではないが接種しない人が多いほど感染者も多くなる傾向が見て取れる。

ランダムな順序で接種した場合は下のようになる。

この場合,途中で接種を中止する場合と等価である。 1日あたり 0.2% では全員に接種するには 500日かかり, 4ヶ月で人口の 24% が接種を受けることとなる。 つまり,グラフにある接種から4ヶ月の間では,接種率にかかわらず同じ推移となる。

以下にその他の場合を示す。

集会頻度 1% の場合(解除時を維持)

推移密集地域 (中央) 優先活発さ優先ランダム
陽性判明者数
感染者数

集会頻度 1.5% の場合(解除時の1.5倍)

推移密集地域 (中央) 優先活発さ優先ランダム
陽性判明者数
感染者数

集会頻度 2% の場合(解除時の2倍)

推移密集地域 (中央) 優先活発さ優先ランダム
陽性判明者数
感染者数

結果から示唆されること

感染の広がりに対するワクチンを接種しない人の影響を理解するため, 接種しない人の割合を 0% から 60% まで 20% 刻みに変えてシミュレーションを行った。 接種の優先順位をつける場合には,接種しない人が増えるほど順位づけの効果が薄れるため, 終息が遅れる傾向があるが,40%以下ではその影響は小さい。 40%程度であれば接種しない人がいても効果に大きな影響がないとも解釈できる。

ただし,このシミュレーションでは外部からの流入や既存ワクチンの効果が期待できない変異株の流入・発生は考慮していない。 地域内で終息した後も,できるだけ多くの人々にワクチン接種を広めることは重要である。