偏りが分散的な人口分布でのワクチン接種戦略

作成: 令和3年3月30日, 編集: 4月3日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

これまでに実施した ワクチン接種の優先順(活発さ優先)ワクチン接種の優先順(人口密度優先) のシミュレーションでは, 人口の分布について領域内で一様,または,中央に集中した分布を仮定していた。 しかし,現実には様々な分布が存在し,これまでのシミュレーションの結果が当てはまらない場合も考えられる。 ここでは,これまでの仮定とは異なる性質をもつと思われる偏りが分散的な人口分布を生成し, ワクチン接種の優先順の影響を理解するためのシミュレーションを行う。

新たに用意した人口分布は, 下の図に示すように人口が比較的密集した箇所および過疎な箇所が分散して存在するものとする。 分布パターンの生成方法の詳細は 人口分布の与え方と分布の生成 を参照されたい。

シミュレーション

ワクチンを接種しない個体の影響 #1 で用いた設定と同様の設定で, 人口分布を上述の方法で与え, 令和2年12月中旬からの東京都の陽性判明者数の推移に適応するようパラメータ調整を再度おこなった。 ここでは,その設定を用いる。新たなパラメータでは宣言解除時点での集会頻度は 5% である。 ワクチンを接種しない場合の推移は以下のようになる。

ワクチン接種の順序については,

  1. 優先順位をつけずランダムな順序で接種した場合,
  2. 活発な個体を優先する場合,
  3. 中央の密集地域を優先する場合,
  4. 人口密度の高い地域を優先する場合.
  5. ランダムに加え,追跡接種を行う場合

の5とおりについて試みる。 緊急事態宣言が3月21日に解除され,その後の集会頻度が,そのまま維持, 1.5倍, 2倍 の各場合について, ワクチン接種が5月1日に開始されたとして, それぞれ,1日あたりの接種数を人口の 0.2%, 0.4% の2とおりのそれぞれに, 接種率が 80% と 60% の場合について, 各40回のシミュレーションを実施する。 1日当たりの接種数は接種率にかかわらず一定であるものと仮定する。

下に代表的な例として,解除後の集会頻度 2倍, 1日当たり 0.2% 接種,接種率 60% の場合の陽性判明者数の推移の平均を示す。 下段の図は感染者数の推移である。

ランダム,中央から,追跡接種の3戦略については差が見られないが,活発さ優先はやや優位な効果がみられる。 反面,密集地優先は逆に効果が劣る結果となった。

解除後も集会頻度が変わらない場合は以下のようになる。

この仮定のもとでは,どの戦略もほとんど差がみられない。

以下にその他の場合を示す。

解除時の集会頻度が維持された場合

接種速度1日あたり人口の 0.2%1日あたり人口の 0.4%
接種率80%60%80%60%
陽性判明者数
感染者数

集会頻度が解除時の1.5倍の場合

接種速度1日あたり人口の 0.2%1日あたり人口の 0.4%
接種率80%60%80%60%
陽性判明者数
感染者数

集会頻度が解除時の2倍の場合

接種速度1日あたり人口の 0.2%1日あたり人口の 0.4%
接種率80%60%80%60%
陽性判明者数
感染者数

結果から示唆されること

密集地域が分散的に配置された人口分布を用いて,ワクチン接種戦略の違いによる効果を調べるシミュレーションを行った。 緊急事態宣言解除を3月21日としその時の集会頻度が5%としてパラメータ調整を行ったため, 感染率の比較的低い集会が頻繁に行われる状況になっている。 領域内での交流が盛んなため,地域差をつけたワクチン接種戦略の効果がほとんど発揮されなかったものと考えられる。 人口密度優先の戦略においては,交流の多い地域内では,密度の差を細かく見すぎると逆効果である可能性が示唆される。