英国型変異株の拡大とまん延防止重点措置およびワクチン接種#1

作成: 令和3年4月13日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

大阪,兵庫,京都3府県では,3月7日の緊急事態宣言解除の後,陽性判明者数が少しずつ増え始め, 3月下旬から4月上旬にかけ,急速な拡大とともに,大阪では1月のピーク時を超える陽性判明者数を記録した。 宣言解除に伴ういわゆるリバウンドと共に,ウイルスの遺伝子解析により英国型変異株が流行を押し上げていることが判明した。この変異株は従来型にくらべ感染力が強く英国での研究では, 実効再生産数が従来型の1.36〜2.00倍 1 の感染力があると考えられている。

東京をはじめ他の地域にも変異株が広まることが予想される。 ここでは,大阪府における陽性判明者数の推移から感染確率の上昇の程度を推測し, 東京都の推移に当てはめ,今後の動向について示唆を得ることを試みる。

シミュレーション

人口規模を 64万人について,人口分布を含めたのパラメータ設定を 偏りが緩慢な人口分布でのワクチン接種戦略 と同様の設定で, まず,令和2年12月中旬からの大阪府の陽性判明者数の推移に適応するようパラメータ調整を行う。 この際,変異株の流入により感染確率が上昇する設定を導入するため,従来株についての感染確率を, 以前の設定より低くし,代わりに人口密度や集会頻度をやや高くすることで, 実際の推移に合うよう調整する。 下に,大阪府の推移に適合するようパラメータ調整を行なった結果を示す。 下側は縦軸の目盛りを対数にしたもので,数値が小さい箇所での適合の様子が分かる。

線形スケール対数スケール

上の結果から,従来株の感染確率を 50%,変異株の感染確率を 75% とする。 ここでいう感染確率とは,1日中感染可能な距離にいた場合に感染する確率である。 上の図では 130日目をピークに徐々に降下しているが, ここでのピークの値およびピークの時期は, 初期に行った 移動の影響 #1 や, 集会の影響 #1 で明らかとなった人口規模による影響があり, 実際には,これよりもピーク時期は遅くなり,そのときの数値は大きくなるものと推測される。

4月12日に大阪,神戸,京都,東京の人口密集地域に出されたまん延防止重点措置が,人々の行動に1月の緊急事態宣言と同様の効果があると想定し, まん延防止重点措置を 30日間,45日間,60日間,75日間とった場合,英国型変異株の東京での拡大が 4月1日,8日,15日に始まった場合の,合計12通りの組み合わせについてシミュレーションを実施する。

下にワクチン接種を行わない場合のシミュレーション結果を示す。

一般へのワクチン接種を4月26日から1日あたり人口の 0.3%の速度で開始。 接種しない人の割合を 30% と想定した場合のシミュレーション結果を下に示す。

結果から示唆されること

感染力の強い変異株の拡大がある場合, 1月の緊急事態宣言と同じレベルの行動制限では,30日で十分な抑制は見込めず, より強い制限要請,長期の制限,あるいは,より速やかなワクチン接種の必要性が示唆される。


  1. Nicholas G. Davies1, Sam Abbott1, Rosanna C. Barnard1, Christopher I. Jarvis1, Adam J. Kucharski: Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England, Science, 09 Apr 2021: Vol. 372, Issue 6538, eabg3055, DOI: 10.1126/science.abg3055