デルタ株下での感染対策#2

作成: 令和3年7月27日, 7月28日編集,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

東京では令和3年7月12日に4度目の緊急事態宣言へ移行したが, これまでの緊急事態宣言とは異なり,営業時間短縮やリモートワークなどの要請に応じる事業者が少なく, また,オリンピック開催関連の情報に新型コロナウイルス関連のニュースが隠れる傾向もあり, 陽性患者数が期待したほどの減少が見込めない状況となった。

ワクチン接種数が順調に伸び,優先接種の対象となった高齢者の感染者数・重傷者数は減少してはいるものの, 感染力の強いデルタ株への移行が急速に進みつつあり, 発熱による相談件数や,入院患者の増加により,医療逼迫が起きつつある。

シミュレーション

人口規模 64万人について,人口分布を含めたのパラメータを デルタ株下での感染対策#1 と同様の設定とする。デルタ株への置き換わりは6月8日から30日間と仮定し, ワクチンの総接種率を 70%, ワクチン接種によるデルタ株に対する感染予防効果を英国からの報告に基づき83%とする。 さらに,モデルに 重症化リスクの高い個体から優先的にワクチン接種 を行うやり方を新たに導入し, 現実で実施されてきた高齢者優先接種を,これまでの「不活発な個体を優先」から当該モードに置き換える。 また,ワクチン接種による発症および重症化抑止効果について, 発症機序モデルにおける快復過程開始までの期間を縮めることで実現する。

緊急事態宣言後の接触機会が解除時の 60%, 80%, 100%, 120% の4とおりとなった場合についてシミュレーションを実施する。 128回の試行の平均値と標準偏差を下に示す。上側が陽性患者数,下側が感染者数である。

東京都における陽性患者数の実データは,ほぼ 120% の場合と適合している。

結果から示唆されること

実データへの適合から,4回目の緊急事態宣言後も接触機会が増加し続けていることが示唆された。 入院患者の増加により医療資源も逼迫しつつあり, より実効性のある感染対策を速やかに実施することが望まれる。

課題

個体同士の接触機会を操作変数として,実データへの適合を図っているが, 東京の繁華街で実測された人流の増減と比較すると, 6月下旬以降の操作データがかなり大きくなっている。 6月中旬以降は感染力の強いデルタ株の影響があると考えられ, 当該シミュレーションで用いた感染力増加のモデルについて再考が必要と考えられる。