第4回目緊急事態宣言の解除戦略#1

作成: 令和3年9月6日, 9月7日編集,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

デルタ株の爆発的な感染拡大により, 首都圏を中心に患者数がこれまでに経験したことのない規模に達し, 保健所や医療関係機関での対応が一部困難な状況となった。 新規陽性患者数を見ると,東京では8月19日をピークに減り始め, 大阪などでも9月に入り減少に転じる傾向が観測された。 感染の拡大とともに一部都道府県に順次緊急事態宣言が適用されたが, 東京等では9月12日を期限としており,延長あるいはまん延防止等重点措置への移行を検討する必要がある。

シミュレーション

シミュレーションのパラメータを デルタ株下での感染対策#6 と同様の設定とする。 9月5日までの東京都の新規陽性患者数の推移に適合するようシナリオを以下のように設定する。 お盆休み頃からリスクのある集会頻度が低下し, その後の医療逼迫の報道等の効果により集会頻度および個別の感染対策の強化により 感染確率が低く維持されたものと仮定する。 また,一時的な医療逼迫により接触追跡の捕捉率が通常の半分程度に低下し,検査結果の遅れが倍になると仮定する。 下に設定するシナリオの時系列を示す。

日付 集会頻度 感染確率 接触追跡 検査結果の遅れ
8月12日 0.99% 85% 20% 1日
8月16日 1日
☆8月23日 ☆0.30% 85% 20%
8月30日 55% 2日
9月1日 10%
9月6日 10% 2日
9月11日 20% 1日
★9月13日 ☆0.30% 55%
★9月18日 1.00% 85%
ー: 値の維持,↓: 値の変化

表中の★印で示した行動制限緩和日を 9月13,20,27日の3通り, ☆印で示した集会頻度の最低値と到達日を 0.3, 0.4, 0.5% の3通りに変えた場合の計9通りについて 各 64回のシミュレーションを行う。 8月12日から始まる集会頻度の低下は, 最低値にかかわらず 11日間で 0.99% から 0.3% に線形に変化するときと同じ傾斜で変化するものとし, 最低値への到達日付はそれに応じて変化する。 行動制限を緩和した後は5日間でお盆休み直前と同等の集会頻度および感染確率に戻るものとし, それ以後は一定値で保たれるものと仮定する。

シミュレーションの実行は昨年12月22日からの始めているが,ここでは5月16日以降について示す。 下に陽性患者数の推移を示す。細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移, 破線は平均±標準偏差である。

下に感染者数の推移を示す。灰色の細い線は1回目のワクチン接種率の推移であり, 値は右側の目盛りに相当する。 ただし,表示は接種済みにも関わらず感染した個体数を除いた数を示しており, 接種数の最終値は人口の 70%相当である。

下に重症者数の推移を示す。

6月下旬以降で実データとシミュレーション結果の乖離が見られる。 これは,この頃から増加したデルタ株の重症化速度の上昇を適切にモデル化できていないためと考えられる。

下に市中不顕性感染者数,つまり,隔離されていない無症状の感染者数の推移を示す。

シナリオの妥当性を確認する目的で,集会頻度,感染確率,接触追跡の3つのパラメータについて, シナリオで設定した値の感度を調べるシミュレーションを行った。 下の3つのグラフは,左から集会頻度,感染確率,接触追跡の値を変えた場合の新規陽性者数推移の比較である。

感染確率の影響が大きく,接触追跡の影響は小さいことが分かる。 なお,感染確率 55% は,2020年に流行した従来株の値を 50% としていたので,ほぼその程度とみなしてよい。 ただし,デルタ株は感染者から排出されるウイルス量が多いため, 感染可能な距離については,シナリオ中で減少させておらず,従来株の 1.47倍のままである。

結果から示唆されること

いずれの場合も行動規制の緩和から約1週間後からリバウンドが発生するが, その規模は緩和時期を遅らせるほど小さくなる。 感度についての分析から,マスク着用,手洗い,消毒など感染確率を減らす対策が効果的であることが示唆される。

ワクチン接種による免疫の効果により,緩くても行動規制を続ける限りは, 大きな再拡大起きにくいとみられるが, 免疫効果の経時的減衰により,感染者数が高い状態が持続する可能性が示唆され, 経済・文化活動を復活させるには,3回目の接種の実施について考える必要があろう。