作成: 令和2年12月18日, 編集: 12月30日, 創価大学理工学部 畝見達夫
個体ベース感染シミュレーションのシナリオ機能を使い,実際にこれまで実施された移動や集会の制限等の時系列に沿ったシミュレーションを行い,その結果と現実との乖離をもとにモデルの精緻化を図る。 初期モデルでのシミュレーション結果およびその後の人口密度や人の動きに関係するパラメータ調整の結果を踏まえ,免疫有効期間のパラメータを調整した。 ここでは,改良モデルによるシミュレーション結果について報告し,さらなる精緻化のための資料とする。 現在の計算機環境で可能な規模を考え,ここでは人口9万人の集団についてシミュレーション実験を行う。
対策の種類に応じ,感染可能距離内に近づいた時の感染率,社会的距離の協力率,移動および集会の頻度を変化させる。 モデルの概要については,こちら を参照されたい。
パラメータの初期値は下表のとおりである。 ただし,感染確率は \(x\),免疫有効期間は \(y\) について異なる値を試し,その影響を調べる。
パラメータ名 | 値 | 単位 |
---|---|---|
初期人口 populationSize |
90,000 | 人 |
世界の大きさ worldSize |
1500 | 距離単位 |
メッシュ mesh |
75 | - |
1日当たりステップ数 stepsPerDay |
16 | ステップ |
初期状態での感染者数 initialInfected |
36 | 人 |
質量 mass |
10 | % |
摩擦 friction |
40 | % |
衝突回避 avoidance |
90 | % |
制限速度 maxSpeed |
60 | 20距離単位/日 |
感染確率 infectionProberbility |
\(x\) | % |
感染距離 infectionDistance |
3 | 距離単位 |
感染性の遅れ contagionDelay |
0.5 | 日 |
感染性のピーク contagionPeak |
3 | 日 |
潜伏期間 incubation |
[1,30,5] | 日 |
発症から死亡まで fatality |
[4,20,16] | 日 |
快復開始まで recovery |
[4,40,10] | 日 |
免疫有効期間 immunity |
[\(10y,50y,20y\)] | 日 |
社会的距離の強さ distancingStrength |
50 | % |
社会的距離協力率 distancingObedience |
0 | % |
移動頻度 mobilityFrequency |
80 | ‰ |
移動距離 mobilityDistance |
[10,80,30] | % |
集会の頻度 gatheringFrequency |
80 | 個/面積/日 |
集会の大きさ gatheringSize |
[10,30,20] | 距離単位 |
集会の持続時間 gatheringDuration |
[6,24,12] | 時間 |
集会の強さ gatheringStrength |
[100,200,150] | % |
接触者追跡 contactTracing |
15 | % |
検査の遅れ testDelay |
4 | 日 |
処理期間 testProcess |
1 | 日 |
検査間隔 testInterval |
4 | 日 |
感度 testSensitivity |
70 | % |
特異度 testSpecificity |
99.8 | % |
疑症状検査対象者 subjectAsymptomatic |
0 | % |
有症状検査対象者 subjectSymptomatic |
10 | % |
経過日数を条件とし,移動や集会の頻度等をパラメータ値の変更を動作とする以下のルールによってシナリオを構成する。
経過日数 | パラメータ名 | 値 | 遷移日数 |
---|---|---|---|
WHO 緊急事態宣言 14日目 | 感染確率 infectionProberbility |
\(0.5\,x\) | 10 |
集会の頻度 gatheringFrequency |
50 | 5 | |
専門家会議から呼びかけ 53日目 | 感染確率 infectionProberbility |
\(0.4\,x\) | 25 |
社会的距離協力率 distancingObedience |
10 | 25 | |
緊急事態宣言発令 82日目 | 社会的距離協力率 distancingObedience |
30 | 3 |
移動頻度 mobilityFrequency |
20 | 3 | |
集会の頻度 gatheringFrequency |
20 | 3 | |
集会の大きさ gatheringSize |
[7,15,10] | 3 | |
受診の目安緩和 116日目 | 検査の遅れ testDelay |
1 | 14 |
緊急事態宣言解除 130日目 | 感染確率 infectionProberbility |
\(0.7\,x\) | 30 |
移動頻度 mobilityFrequency |
55 | 2 | |
集会の頻度 gatheringFrequency |
50 | 2 | |
集会の大きさ gatheringSize |
[5,20,10] | 2 | |
集会制限緩和 148日目 | 集会の頻度 gatheringFrequency |
60 | 5 |
集会の大きさ gatheringSize |
[5,30,15] | 5 | |
集会制限緩和 176日目 | 集会の頻度 gatheringFrequency |
70 | 5 |
集会の大きさ gatheringSize |
[10,30,20] | 5 | |
GOTO 第1弾 188日目 | 移動頻度 mobilityFrequency |
60 | 5 |
集会制限緩和 247日目 | 集会の頻度 gatheringFrequency |
80 | 5 |
GOTO 第2弾 259日目 | 移動頻度 mobilityFrequency |
80 | 3 |
季節性流行 300日目 | 感染確率 infectionProberbility |
\(x\) | 20 |
感染確率の値を 50%, 55%, 60% の3通りのそれぞれについて,免疫有効期間 \(10y\)〜\(50y\)日,中央値 \(20y\)日 の \(y\) の値を 1から9まで1刻みの異なる値を設定したシミュレーションを,それぞれ10回実行する。 つぎに示す図は,全体の人口に占める感染者の割合の時間変化について,10回の試行の各ステップでの平均をとったものである。 この指標は陽性判明者数とは異なるので,現実に測定することが難しいという点には注意されたい。
下の図は,陽性判明者数の推移であり,同じく10回の試行の各ステップでの平均をとったものである。
モデルの精緻化を目的とし,対策の時系列にそったシナリオによるシミュレーションを行った。 感染者数および陽性判明者数の推移について,感染確率50%, 55%, 60% について,免疫有効期間 10-50日から 90-450日まで10-50日刻みの異なる値それぞれについて10回のシミュレーションを実施した。 下に厚生労働省1および東京都2から報告されている陽性者数推移と,免疫有効期間 30-150日のシミュレーション結果との比較を示す。
感染確率50%および60%で感染者数,陽性判明者数ともにおおむね同様の推移が観察されたが, 以下の点について現実との乖離が見られ,今後もモデルの修正を進めたい。
免疫有効期間が30-150日程度だとすると,特に対策を打たなければ,150日程度の周期で流行が繰り返すと予想される。 免疫有効期間の長さは,個体の獲得免疫保持期間だけではなく,ウイルスの変異速度にも依存すると考えらる。 今後も,シミュレーション実験をとおして感度を見極めつつ変更を加え,必要ならモデル自体を修正していきたい。
© Tatsuo Unemi, 2020. All rights reserved.
厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症について > オープンデータ ↩
東京都福祉保健局: 東京都 新型コロナウイルス陽性患者発表詳細 ↩