令和3年1月の緊急事態宣言の解除戦略 #4

作成: 令和3年2月20日, 編集: 2月26日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

ここでは先のシミュレーションで用いたモデルを精査し, より現実に近い現象を再現できるようパラメータの調整を行い,同様のシミュレーションを行う。 東京都における実際の陽性判明者数の報告日での推移をみると, 緊急事態宣言が出された1月7日の翌日1月8日をピークに減少に転じている。 感染から陽性判明までには5日程度の遅れが考えられるため, 1月8日の5日前には,なんらかの理由で感染の頻度が下がったものと考えられる。 また,一旦減少した陽性判明者数が一度横ばいになった後,再び減少に転じている。 つまり,緊急事態宣言が出される直前頃に再度感染の増加があったものと推測される。

感染拡大の立ち上がりの早さを再現するため, 先のシミュレーションより集頻度を低く感染率を高くする。 下の図は,新たなパラメータ設定でのシミュレーション結果である。 初期状態で,感染者が人口の 0.02%存在するものと仮定し, 集会頻度4%でシミュレーションを開始する。 16日目を1月1日と仮定して,一旦頻度を 0.5%に下げ,1月3日に1%に上げた後, 緊急事態宣言が出された1月7日から4日間を経て抑制された頻度に変わるものとする。 この設定の下で抑制された頻度の値を 0.6〜0.9% とした場合の陽性判明者数の推移を調べる。 図は各抑制度合いについて30回のシミュレーションの平均を示している。 図中 → lift から右側は,2月28日に12月末と同等の集会頻度に戻った場合の推移である。 緑の太線が東京都における陽性判明者数の週平均であり, 人口を1,396万人と仮定した比率で表わした。

緊急事態宣言後の減少の度合いから推測して,以下では 0.75% に抑制されたものと仮定する。

シミュレーション

上述の前提を踏まえ,人口36万人の集団について, その 0.02%にあたる72人の感染者がいる状態をシミュレーションの初期状態とし, その日付を12月16日と仮定して,上述のシナリオに従い集会頻度を日付の進行とともに変化させる。 緊急事態宣言解除の日付を,2月28日,3月7日,14日,21日とし, また,解除後の集会頻度を年末の4%に対し,2, 3, 4% の3とおりについて, 陽性判明者数及び感染者数の推移の違いを見る。 パラメータ設定値の詳細は,こちらを参照のこと。 このとき,シミュレーション時間節約のため,緊急事態宣言解除までの推移については, 40回のシミュレーション試行のうち,それらの平均にもっとも近い試行を用いることとする。 下に40回の試行中,最小,最大,平均,平均に最も近い試行の推移を示す。

その試行における2月28日,3月7日,14日,21日の状態を保存し, 宣言解除後のシミュレーションを異なる乱数系列により40回実施する。 なお,この機能を実現するため,シミュレータに新たに途中状態の保存と読み込みの機能を追加した。

宣言解除時の陽性判明者の人口に対する割合は以下の表の通りである。

Feb 28 Mar 7 Mar 14 Mar 21
100万人当たり 14.36 9.58 5.42 2.64
東京都換算(人) 200 134 76 37

陽性判明者数の推移の40試行の平均を示す。

2.0% 3.0% 4.0%

下に感染者数の推移を示す。

2.0% 3.0% 4.0%

全シミュレーションについての個々の推移は下記のとおりである。


陽性判明者数

感染者数

結果から示唆されること

拙速な解除は直ちに再拡大を招くことが示唆される。 ここでの結果からは,3月21日まで解除を遅らせた場合でも, 4月に入ってから再拡大の可能性があり, 感染リスクの高い会合等を抑制する手段や, ワクチンの迅速な接種が望まれよう。

先のシミュレーション結果と比較すると,拡大の立ち上がりが早い。 この点は,頻度は小さいながら感染リスクの高い事象があれば, 感染者数が縮小した状況でも急速な再拡大の可能性があることを示唆している。