都議会議員選挙およびオリンピック・パラリンピックの影響

作成: 令和3年6月6日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

令和3年3月下旬から4月上旬にかけて発生した第4波の流行拡大を抑えるため, 4月上旬より,流行地域に順次,まん延防止重点措置が発令され, 下旬からは緊急事態宣言へと規制の強化がはかられ, 6月上旬時点では6月20日が宣言の期限とされている。 宣言解除後のリバウンドも懸念されるが,さらに7月4日は東京都議会議員選挙が予定されており, 続く7月23日からのオリンピック,8月25日からのパラリンピックで観客を入れた場合の人出の増加が懸念される。

選挙の影響については,3月下旬に実施された小金井市議会議員選挙の影響を評価するため, 東京都が公開している市区町別陽性者数推移のデータをもとに周辺の7市との比較を試みた。 下に選挙期間前後における周辺市の推移を示す。縦軸は人口あたりの陽性判明者数であり, 各折れ線は,1日あたりの数の前後3日ずつを含めた週平均である。

選挙後の3月23日から4月5日頃にかけて,小金井市の陽性者数が周辺に比べ多くなっていることが分かる。 しかし,幅は3月上旬の小平市,4月下旬の西東京市の上昇と同程度であり, 懸念材料ではあるが,そのまま都議会議員選挙に当てはめて良いかどうかは明確でない。

シミュレーション

人口規模 64万人について,人口分布を含めたのパラメータ設定を 3回目緊急事態宣言解除およびその後のシナリオ と同様の設定で, 東京都の陽性判明者数推移の実績に適合するよう調整したシナリオのパラメータを用いる。 ワクチン接種については,全国の実績をもとに,7月末には, 1日あたり人口の0.4%に1回目の接種が実施されるものと仮定する。 都議会議員選挙期間中およびオリンピック・パラリンピック開催期間中の集会頻度が, その直前の \(\alpha\) 倍(パラリンピックは \(\alpha/2\) 倍)に増えると考え, \(\alpha\) の値が 1, 1.5, および 2 の3とおりの場合それぞれに64回の試行を行う。 緊急事態宣言を6月20日に解除し, その後の集会頻度が3月の前回緊急事態宣言解除時と同様のレベルで安定すると仮定した場合のシミュレーション結果について, 下に平均値と標準偏差の推移を示す。 上側は1日あたり陽性判明者数の週平均,下側は各時点での感染者数の推移である。 同時に,上側には1回目ワクチン接種者の累計の人口に対する割合, 下側にはシミュレーションのシナリオとして埋め込んだ集会頻度の推移を赤紫の線で示す。 赤い実線はこの集会頻度に基づく推移であるが, 緑は,選挙およびオリンピック期間中に頻度が 1.5倍になった場合, 青は 2倍 になった場合である。

以下の下側の図中の赤紫の線が示すように,宣言解除後の集会頻度が徐々に上昇すると仮定した場合は,以下のようになった。

結果から示唆されること

上の図からワクチン接種が順調に進み,かつ, 緊急事態宣言解除後の人々の動きを今年3月の解除時程度に抑制できれば, 大きなリバウンドは起きないと期待できるが, 集会頻度が1.1倍以上になった場合は,都議会議員選挙の影響がない場合でも, オリンピック開幕直前に再度の宣言が必要となる可能性がある。

緊急事態宣言の再延長を検討する必要があるかもしれない。 その場合は,宣言の効果を阻害しないよう, 宣言下における選挙運動のあり方について十分な検討が必要であろう。