デルタ株下での感染対策#1

作成: 令和3年7月14日, 創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

東京では令和3年7月12日に4度目の緊急事態宣言へ移行し,期限は8月22日とされた。 感染力の強いデルタ株への移行が7月中旬には50%に到達するという見方もある。 ワクチン接種も実績で1日120〜150万接種に届いていると見られ, 今後もこのペースを維持できれば,9月中には国民の70%が接種済みとなる可能性もある。 一方,接種が先行しているイスラエル・英国・米国の接種実績を見ると, 55〜60% 付近から上昇が鈍る傾向があり, 日本においても70%以上の接種率を達成するには少々何らか困難が伴うものと予想される。 今後の対策を考える上でも, 接種率の違いによる感染への影響についてもある程度の知見を得ておく必要があろう。

4度目の緊急事態宣言により前回に近い感染抑制効果が得られたとして, 解除後の行動制限緩和によりどのような感染状況が変化するか見極める必要がある。 一連の行動制限により大きな損失を被った旅行,外食,娯楽関連業界の経済的立て直しのための 可能な政策のヒントとなるシミュレーションも必要であろう。

シミュレーション

人口規模 64万人について,人口分布を含めたのパラメータを デルタ株の影響#2 と同様の設定とする。ただし,デルタ株への置き換わりは6月8日から30日間に改める。

ワクチン接種については,大規模接種センターでの64歳以下を対象とした接種が始まった6月18日から 2週間をかけて1日あたり1回目接種数を徐々に 0.4% から 0.6% に上げ, そのままの速度を維持するものとする。 緊急事態宣言中の集会頻度については,前回の1.3倍程度に緩むものと仮定する。 ワクチンの総接種率を 70%, 80%, 90%, 100% と変えた場合について来年1月末までの動きをシミュレートする。

緊急事態宣言解除後のパラリンピック期間にも何らの行動制限があるものとし, その後の集会頻度が 1%, 2%, 4% になった場合のシミュレーション結果示す。 このシミュレーションにおける集会頻度 4% は,まん延防止重点措置中のほぼ2.4倍で, 平常時の 80% 程度を想定した規模である。 シナリオとして設定した集会頻度の推移を灰色で示してある。

集会頻度陽性判明者数感染者数
1%
2%
4%

集会頻度に応じて感染者数も上下するが,上記3通りのいずれの場合も,1月末でまだ終息には至らない。 接種率が高い方が感染者数をやや抑えられるが, やや強い行動制限を持続する場合は 70%〜100% の間ではさほど大きな差ではない。 集会頻度 4% つまり,ほぼ制限を解除した場合には接種率70%では10月中旬にピークとなった後 感染者数が多い状態が持続する。

10月末に規制をほぼ解除し,また, 年末に昨年末同様の接触機会の上昇があった場合のシミュレーション結果を下に示す。

制限解除から10日ほど遅れて感染者数が増加し, 年末の接触機会の増加により1月初めには大きなピークが現れる。 接種率が高ければこのピークはやや低く抑えられる。

結果から示唆されること

全員のワクチン接種ができた場合でも,感染予防効果は100%ではないため,感染は持続する。 現在予定されている8月23日の緊急事態宣言解除では,その後も何らかの行動制限を行わない限り 再度,感染拡大が起きることが示唆される。

ワクチン接種を進め,行動制限を続けたとしても, 感染者数はあるレベルで維持され, 本年中に完全な終息に至ることは期待できないと思われる。

課題

ワクチン接種による発症防止および重症化防止効果により, 入院を必要とする患者数は減少すると考えられるが, ここで採用したモデルには,ワクチンの効果として感染抑止は入っているが, 発症および重症化抑止については実装されていない。 対策の出口戦略を考える上では,感染者数よりも入院者数と重症者数が重要となると考えられ, これらをモデルに組み込み,入院者数と重症者数についてのシミュレーションをより現実に近づける必要があろう。

新型コロナウイルスを完全に抹消することはかなり難しいと思われ, 特別な対策から日常的永続的な対策へ移行する条件と内容について考える必要があろう。