作成: 令和3年8月10日, 創価大学理工学部 畝見達夫
SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書
東京と沖縄でデルタ株の影響と思われる爆発的な感染拡大が発生し, その後他の多くの道府県でも同様の感染拡大が起き, 週平均の陽性患者数が過去最高を更新し続けている。 東京ではすでに医療資源が逼迫しており, 病床数が足りず入院困難な中等症以上の患者が発生し, 既存の基準では対応しきれないところまできている。
発症者のほとんどはワクチン未接種であり, 特に40〜50歳代の患者に重症化する場合が増え, それ未満でも重症化するケースが発生している。
シミュレーションのパラメータを デルタ株下での感染対策#3 と同様の設定とする。 デルタ株への置き換わりについては,最新の東京都の陽性患者数の推移と一致するよう, 試行的なシミュレーションを通してシナリオを再調整し, デルタ株の感染距離のパラメータを 4.8 から 4.2 に縮小した。
より厳しい行動制限を8月13日または20日から実施したと仮定し, 制限により集会頻度および移動頻度をそれまでの 0, 10, 20, 30% とした場合について, 陽性患者数および感染者数の推移を調べる。
8月13日から | 8月20日から | |
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陽性患者数 | ||
感染者数 |
感染距離パラメータの縮小により,前回のシミュレーションと比較すると, ピーク時の感染者数が減少し,制限による集会頻度が 30% の場合でも,感染者数が減少に転じる結果となった。
平均値のピークの日付と値は以下の通りである。
集会移動 | 8月13日から制限 | 8月20日から制限 | |||||
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日付 | ピーク値 | 東京都換算 | 日付 | ピーク値 | 東京都換算 | ||
陽性患者数 | 0% | 8月23日 | 0.0597% | 8,294人 | 8月29日 | 0.0749% | 10,411人 |
10% | 8月24日 | 0.0597% | 8,303人 | 8月30日 | 0.0750% | 10,419人 | |
20% | 8月25日 | 0.0589% | 8,182人 | 8月30日 | 0.0731% | 10,157人 | |
30% | 8月26日 | 0.0608% | 8,455人 | 8月30日 | 0.0764% | 10,625人 | |
感染者数 | 0% | 8月27日 | 1.140% | 158,399人 | 9月1日 | 1.421% | 197,513人 |
10% | 8月29日 | 1.167% | 162,191人 | 9月3日 | 1.446% | 200,929人 | |
20% | 8月30日 | 1.170% | 162,628人 | 9月4日 | 1.435% | 199,400人 | |
30% | 9月1日 | 1.231% | 171,077人 | 9月5日 | 1.510% | 209,838人 |
8月8日までの東京都における陽性患者数の推移に適合するようデルタ株の感染力の強さについてのシナリオを再調整し, シミュレーションをやり直した結果,前回のシミュレーション で示唆された感染拡大の深刻さよりも感染者数の最大値はやや下がったが,深刻であることには変わりはない結果となった。 特段の対策により,感染リスクを伴う人と人との接触機会を減らす必要があることが示唆された。 3割以下に減らせれば感染者数を約10日後から減少に転じることができるが, 減少の速度は遅く,長期間の制限維持が必要となることが示唆された。
8月20日から行動制限を実施した場合,ピーク時の陽性患者数と感染者数は, 東京都の人口に当てはめると,それぞれ約10,000人および200,000人ほどに到達することが示唆された。 すでに東京都では医療が逼迫してる。 今後,8月末に上記程度の規模への感染拡大が予想され, 医療資源の増強と適切な利用戦略を早急に考える必要があろう。