第4回緊急事態宣言解除およびその後のシナリオ

作成: 令和3年9月13日, 9月14日編集,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

デルタ株の爆発的な感染拡大も東京では8月19日をピークに新規陽性患者数が減り始めた。 重症者数も減少に向かう兆しが見え始めたが, 数は依然多く十分な治療を提供するには更なる減少を待つ必要がある。 9月末まで延長された緊急事態宣言の後の戦略を考える必要があるが,それには, ワクチン接種の進捗の下で, 行動制限緩和による経済・文化活動の復活と感染状況のバランスをどのように取るのか 考えなければならない。

シミュレーション

シミュレーションのパラメータを ワクチン最終接種率の影響#1 と同様の設定とする。

10月以降、昨年秋と同程度の制限に緩和した場合を想定したシナリオについて, 明年3月末までのシミュレーションを実施する。 ただし,行動制限の緩和について, 11月に行動制限を撤廃,明年2月に行動制限を撤廃,弱い行動制限を持続の3通りを考え, それぞれについて,ワクチンの最終接種率が人口の 70, 75, 80, 85% の各場合を考える。 また,年末に昨年と同等の接触機会の増加があるものと想定する。 ワクチン接種による予防効果は、2回目接種後114日目から線形に減衰し214日目に消失すると仮定する。 なお,ここでは接種証明,陰性証明,ブースタショットは想定しない。 各64回のシミュレーションを行う。

シミュレーションの実行は昨年12月22日からの始めているが,ここでは6月20日以降について示す。 下に陽性患者数の推移を示す。細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移, 破線は平均±標準偏差である。 細い線は1回目のワクチン接種率の推移であり,値は右側の目盛りに相当する。 ただし,表示は接種済みにも関わらず感染した個体および経時的減衰により予防効果が失われた個体の数を除いた数を示している。

下に新規陽性患者数の推移を示す。

11月に行動制限を撤廃2月に行動制限を撤廃行動制限を継続

接種率75%以下では再拡大の可能性が高く, 接種率80%以上では,行動制限を持続すれば爆発的な拡大は抑止できそうに見えるが, 感染者数は高いレベルで継続する。 接種率85%以上で11月に規制を撤廃する場合を除き,撤廃に伴い再拡大する恐れがある。 2月の撤廃は、接種率85%でも拡大につながる恐れがある。 下に感染者数の推移を示す。

11月に行動制限を撤廃2月に行動制限を撤廃行動制限を継続

下に重症者数の推移を示す。

11月に行動制限を撤廃2月に行動制限を撤廃行動制限を継続

6月下旬以降で実データとシミュレーション結果の乖離が見られる。 これは,この頃から増加したデルタ株の重症化速度の上昇を適切にモデル化できていないためと考えられる。

下に市中不顕性感染者数,つまり,隔離されていない無症状の感染者数の推移を示す。

11月に行動制限を撤廃2月に行動制限を撤廃行動制限を継続

以下に,3つの行動規制設定それぞれについて,1月中のピーク時と3月末の数値を東京都に換算した場合の人数とともに示す。

1月のピーク3月末
陽性患者数
重症者数

他に特段の対策を講じなければ,接種率85%を達成できたとしても今年1月と同程度の感染拡大が生じ, 75%以下では8月に経験した第5波と同等あるいはそれ以上の拡大が生じることが示唆されている。 3月末時点での感染者数が 11月解除より2月解除の方が多くなっているのは, 11月解除では1月の感染拡大が非常に大きいため感染による免疫の獲得により3月の感染拡大が抑制されたためと思われる。

結果から示唆されること

接種証明,陰性証明,ブースタショットを導入しない場合についてのシミュレーションを行った。 ワクチンの最終接種率が 75% 以下では、再度の強い行動規制が必要になると思われる。 年末に昨年と同等の接触機会の増加があると、明年1月に今年1月の第3波と似た感染拡大が発生すると思われる。 このときの規模はワクチン接種率と行動制限の程度に依存する。 ワクチン接種による免疫効果の経時的減衰により、行動の程度に応じて感染が拡大する。 これを抑制するにはブースタショットが必要と思われる。

ワクチン接種率が80%以上を達成できれば,その獲得免疫の効果により,緩くても行動規制を続ける限りは, 大きな再拡大起きにくいとみられる。しかし, 免疫効果の経時的減衰により,感染者数が高い状態が持続する可能性が示唆され, 経済・文化活動を復活させるには,接種証明,陰性証明,ブースタショット等の導入・実施について考える必要があろう。