オミクロン株の侵入を想定したシミュレーション#1

作成: 令和3年12月1日,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

11月26日に WHO から懸念される新たな変異ウイルスの発生について公表があり1, すでに南アフリカおよび周辺国において感染の拡大が見られることから, デルタ株より強力な感染力を持つ可能性,および,スパイク蛋白の変異箇所の数が多く, 既存のワクチンや治療薬の効果についての懸念が表明された。 これを受け,日本では11月29日に海外からの入国を一時停止する措置がとられた。 しかし,11月30日にナミビアからの既入国者の検査結果で当該株への感染が確認され, すでに侵入している可能性も示唆されるに至った。 既存のワクチン接種や従前の変異株への感染による獲得免疫の当該株に対する予防効果や, 重症化リスクについてはまだ不明だが,現在分かっている事実から推定される数値の範囲で, それらの性質を想定し,シミュレーションにより様々な想定すべきシナリオを揃えておく必要があろう。

シミュレーション

シミュレーションのパラメータを 2回目接種と3回目接種の間隔#1 とほぼ同様とし, 社会活動等を,忘年会等を含め昨年と同等,ワクチンの最終接種率を対象人口の90% つまり全人口の約80%, また,ワクチンの3回目接種を2回目接種から8ヶ月後と仮定する。 国内へのオミクロン株の侵入後,12月初旬に感染者が少数散在する状況になるものと想定する。

当該株の感染力をデルタ株の 1倍,1.5倍,2倍の3とおり, 既得免疫および治療薬の効果を 25%, 50%, 75% の3とおりの各組み合わせ合計9とおりについて, それぞれ 128回のシミュレーションを実施し,感染者数などの推移の平均と標準偏差を調べる。

下に新規陽性患者数の推移を示す。 細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移,破線は平均±標準偏差である。 細い線は1回目のワクチン接種からの接種効果を維持している個体の人口に対する率の推移であり, 値は右側の目盛りに相当する。

結果から示唆されること

いずれの場合も急速な感染拡大の発生が予想される。 拡大の時期と規模は感染力と既得免疫の効果の差による。 時期は12月下旬から1月下旬となることが示唆される。 特に感染力がデルタ株の2倍程度の場合は,拡大速度が急激となり, 兆しをとらえた速やかな対策の実施が求められよう。


  1. WHO, Classification of Omicron (B.1.1.529): SARS-CoV-2 Variant of Concern, https://www.who.int/news/item/26-11-2021-classification-of-omicron-(b.1.1.529)-sars-cov-2-variant-of-concern, Nov., 26, 2021.