オミクロン株の急拡大シミュレーション#1

作成: 令和4年1月18日,修正:1月24日,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

2021年11月下旬から12月にかけて日本でもオミクロン株の感染の急増がみられ, 特に沖縄,山口,広島では,急速な拡大に対応し,1月9日にまん延防止等重点措置がとられた。 2022年1月には全国で急拡大が発生した。 先行して流行した南アフリカや英国では、すでにピークを過ぎ収束に向かっているが, 1月中旬時点では,多くの国々で拡大中である。 一方,オミクロン株の特徴として,潜伏期間が短く,感染から次の人への感染までの期間も短い。 ワクチンを2回接種済みや他の変異ウイルスへの感染履歴のある人でも感染するが, 未接種、未感染の人の半分あるいはそれ以下である。 発症しても多くの人は重篤化しない。特に,ワクチン2回接種済みの場合,重症化率はかなり低い。 とはいえ,入院が必要な患者の割合は少なくなく,医療逼迫が起きつつある。 これらの特徴から,隔離の基準や期間や接触追跡の有効性など,これまでの対策の方針を見直す必要がある。

シミュレーション

先の報告 で用いたパラメータ設定を基本に, 1月前半での感染状況を踏まえ,パラメータの再調整を行い,同様のシミュレーションを実施した。 加えて,接触追跡の効果を見るため,1月20日以降,接触追跡を行わない場合についても実施した。 今回は,シミュレータの拡張により,ワクチン接種による重症化防止効果を加味した。

ここでは,2回目接種7ヶ月後に3回目接種を行うものと仮定する。 パラメータ再調整により,オミクロン株の増殖力をデルタ株の 1.8倍とし, 予防対策が 2020-2021年の年末年始よりも有効に働いたものとして, 東京都の実データに沿うよう効果を調整した。 過去の感染やワクチン接種によるオミクロン株に対する感染予防効果は 50% と設定した。 これにより,1月第2週に観測された急速なオミクロン株への置き換わりもある程度再現されている。

オミクロン株の毒性について以下ではデルタ株の 50%, 25%, 12.5% の3通りについて試す。

新規陽性患者数の推移 (特段の対策を採らない場合)

特段の対策を採らない場合について, 下に東京都をモデルとした新規陽性患者数の推移を示す。 細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移,破線は平均±標準偏差である。 細い線は1回目のワクチン接種からの接種効果を維持している個体の人口に対する率の推移であり, 値は右側の目盛りに相当する。

7月4日以降分。縦軸の上限を8月のピーク時の2倍とした場合。

12月21日以降分。

いずれの場合も,対策をとらなければ急速な感染拡大により前回第5波のピークをはるかに超える可能性が高い。 これは先の報告 の結果とほぼ同じである。

重症患者数の推移 (特段の対策を採らない場合)

以下に重症患者数の推移を示す。

新たに実装したワクチン接種による重症化防止効果により, 先の報告 の結果より重症者が少なくなる結果となった。 オミクロン株の毒性が25%以上の場合では重症患者数が8月のピーク時を超える結果となったが, 一方,12.5% ではかなり少なく抑えられる結果となった。

変異ウイルスごとの感染者数の推移

下に毒性12.5%の場合の,変異ウイルスごとの感染者数の推移を示す。

以下に示すように,比率としてはオミクロン株が優勢になるが, デルタ株も絶対数では少々増加するものの2月中には完全にオミクロン株に置き換わる結果となっている。

1月20日から行動制限を5週間実施した場合

1月20日から行動制限を5週間実施した場合のシミュレーション結果を以下に示す。 ここでは,まん延防止特別措置程度の制限を想定している。

行動制限を実施した場合でも,新規陽性患者数,重症患者数ともに, ピークは20%ほどの減少する結果となった。

1月20日から接触追跡を実施しない場合

1月20日から接触追跡を実施しない場合のシミュレーション結果を以下に示す。

新規陽性患者数および重症者数ともに,接触追跡を続ける場合とほとんど差がない。

結果から示唆されること

いずれの場合も急速な感染拡大の発生が予想される。 今回のシミュレーションで,ワクチン接種による重症化予防効果を導入したことにより, 先の報告に比べ,重症患者数は少ないなる可能性が示された。 オミクロン株の潜伏期間の短かさから,接触追跡の効果はかなり限定的になものとなることも示唆された。