オミクロン株の急拡大シミュレーション#2

作成: 令和4年1月24日,創価大学理工学部 畝見達夫

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

2022年1月にはオミクロン株を中心に全国で急拡大が発生し, 沖縄,山口,広島では1月9日に,ついで東京など1都12県は 1月21日にまん延防止等重点措置の適用が開始され, さらに大阪などの府県からも要請が出ている。 感染者の爆発的増加に伴い,入院が必要な患者も割合は少ないとはいえ, 医療逼迫を起こす水準にまで届きつつある。

入院の判断は現場の医師が行なっているが,実際の入院患者数は症状の水準とともに, 受け入れ可能な病床数にも依存すると考えられる。過去のデータからは, 入院者数の感染者数に対する比は,拡大初期には大きく拡大の進行とともに減少することが読み取れる。

シミュレーション

先の報告 で用いたパラメータ設定を, 現実の最新動向に合うよう一部再調整を行い,さらに, 入院が必要な程度の中等症患者数の変化を,いくつかのシナリオに沿って見積もるために, 発症機序のモデルを見直し,変異ウイルスの毒性の違いによる症状亢進の速さを, 発症後ではなく,中等症到達後に変更した。

ここでは,2回目接種7ヶ月後に3回目接種を行うものと仮定する。 過去の感染やワクチン接種によるオミクロン株に対する感染予防効果は 70% と設定した。 行動制限の期間を1月21日から17, 24, 31 日間の3通りについて試す。

また,行動制限期間 24日間について, 中等症患者数および重症患者数の推移を見るため,新たに変更を加えた毒性について, 以下ではオミクロン株がデルタ株の 4〜20% の範囲で 2% 刻みの合計9通りについて試す。 1月20日までの128とおりの試行の中から, 東京都の陽性患者数推移に近い8試行を抽出し,それぞれに16とおり,合計128とおりの試行を実行し, 平均と標準偏差について分析する。

新規陽性患者数の推移

下に東京都をモデルとした新規陽性患者数の推移を示す。 細い折れ線はパラメータとして設定した集会頻度の推移,破線は平均±標準偏差である。 細い線は1回目のワクチン接種からの接種効果を維持している個体の人口に対する率の推移であり, 値は右側の目盛りに相当する。

7月4日以降分。縦軸の上限を8月のピーク時の2倍とした場合。

1月1日以降分。

平均値のピークの日付と人口比は以下のとおりである。

制限期間 日付 人口比
17日 2月20日 1.12 ± 0.04 %
24日 2月19日 1.00 ± 0.02 %
31日 2月19日 0.99 ± 0.02 %

隔離患者数の推移

自宅療養等も含めた隔離患者数の推移を以下に示す。

2月末に,人口の 7〜8% が隔離状態となる結果となった。

中等症および重症患者数の推移

以下に中等症患者数の推移を示す。

以下に重症患者数の推移を示す。

ウイルスの毒性の強さに大きく依存するが,いずれの場合も今後の急速な拡大が示唆される。

結果から示唆されること

今回のシミュレーションで,ウイルスの毒性による症状亢進速度を中等症後に影響するよう変更したことにより, 入院が必要な患者数の推移についても分析を行なった。 対策の効果がここで用いた設定の程度であるとすると,いずれの場合も引き続き感染拡大の持続が予想され, 社会機能不全などが起きないよう対策を講じる必要があろう。