ワクチン接種の優先順 #1(修正版)

作成: 令和3年3月4日, 編集: 3月7日, 創価大学理工学部 畝見達夫

注意:3月5日までのワクチン接種に関するシミュレーションで,確率計算の式に一部間違いがあり, 1回接種後数日で80%ほど抑止効果が出る設定になっていました。 以下のシミュレーションは,それを修正し計算をやり直した結果に基づいています。

SimEpidemic 個体ベース感染シミュレータ 技術文書

背景

緊急事態宣言の解除戦略#5 の設定を用いた ワクチン接種#3 のシミュレーションでは, 個体集団からランダムにワクチン接種対象者を選んでいた。 現実ではすでに医療関係者から先行接種が始まっており, 現時点での計画では重症化リスクが高いと思われる高齢者から接種を開始することとなっている。 新型コロナ感染症を原因とする死亡の数を減らす,あるいは,医療の逼迫を避けるためには, この戦略は有効のように思えるが,他方,早期収束とピーク時感染者数の縮小という観点からは, 高齢者かどうかに関わらず移動や集会参加など多様な他者との接触機会の多い人から優先的に 接種する方が効果があるものと考えられる。

ここでは,その定量的な関連性についての理解を得るため, 個体ごとに活発さの指標を与え,ワクチン接種の順番を a. 活発な人を優先,b. 活発さと無関係,c. 不活発な人を優先 とした場合の感染者数の推移を比較する。 b. についてはすでに ワクチン接種#3 にて実行済みなので, その結果を比較に用いる。

シミュレーション

ワクチン接種の順序以外は,ワクチン接種#3 と同じ設定を用いる。 それぞれ,1日あたりの接種数を人口の0.2%, 0.4%, 0.6% の3通りについて 各40回のシミュレーションを実施する。

下に代表的な例として,3月21日解除,解除後の集会頻度 5%, 5月1日ワクチン接種開始の場合の陽性判明者数の推移の平均を示す。 5月1日以降の線は,実線が a. 活発な人を優先,破線が b. 活発さと無関係,点線が c. 不活発な人を優先 の場合である。 下段の図は4月1日以降の部分を拡大表示したものである。

下の図はピーク時の感染率とワクチン接種開始からの日数である。 各実施率の3本の棒は左から a. 活発な人を優先,b. 活発さと無関係,c. 不活発な人を優先の場合である。

実施率 0.2% では,時期,規模ともに,不活発な人優先とランダムな順序の場合の差が大きいのに対し, 実施率 0.4% と 0.6% では,そのような差は明確でないが,いずれの場合も, 活発な人を優先してワクチン接種を実施する方がピーク時を早め,感染も抑えられる結果となっている。

以下に全ての場合を示す。

集会頻度 4% の場合(2月末の1.6倍,年末の14.8%)

推移4月1日接種開始5月1日開始6月1日開始
陽性判明者数


感染者数


集会頻度 5% の場合(2月末の2倍,年末の18.5%)

推移4月1日接種開始5月1日開始6月1日開始
陽性判明者数


感染者数


ピーク

集会頻度 6% の場合(2月末の2.4倍,年末の22.2%)

推移4月1日接種開始5月1日開始6月1日開始
陽性判明者数


感染者数


ピーク

結果から示唆されること

ワクチン接種の優先順の違いが感染者数の推移に及ぼす影響について, 緊急事態宣言解除時期,接種開始時期,接種の速さについて設定変え,シミュレーションを行った。 影響の割合に多少の差はあるものの,いずれの場合も活発な人を優先する方が終息を早め, ピーク時の感染者数も少なく抑えられる結果となった。逆に不活発の人を優先した場合は, ランダムな順序で接種を実施するよりも,終息が遅れ,ピーク時感染者数も増加する。

現在の計画では医療資源の逼迫を避ける目的で,医療従事者や介護従業者の次に高齢者を優先する計画が 考えられる傾向にあるが,年齢にかかわらず,感染リスクの高い集会への参加頻度の高い人や, 集団間の感染を媒介する移動の頻度が高い人を優先することが全体の感染拡大抑制と早期終息には有効あることが示唆される。

上の意味での活発さは必ずしも年齢にはよらない。 例えば,オンラインでのコミュニケーションに慣れず,従来の飲食をともにする対面での会合を必要とする人々, 定年退職後に年金等で経済的にもある程度安定し,時間と体力にもゆとりのある人々などを優先するなども考えるのが 良いかもしれない。